Cross Polarization (交差偏極) と Hartman-Hahn 条件
Cross Polarization (CP) は NMR において異種核間の偏極率交換を行うためによく使われる。
通常共鳴周波数の異なる量子系の間の相互作用は、secular term をとると \(I_z S_z\) の形となるが、双方の量子系にラビ周波数を一致させたパルス照射をすると、パルス照射軸方向での swap (あるいは flip-flop) 相互作用 \(I_{x+} S_{x-} + I_{x-} S_{x+}\) だけを引き起こすことができる。
ラビ周波数が一致していないときは
デカップリング されて相互作用が消えるので、ラビ周波数の一致という条件はCPを起こすために必須であり、
Hartman-Hahn 条件 と呼ばれる。
記号の準備
| スピン \(I\) の x,y,z方向のスピン演算子 |
\(I_x, I_y, I_z\) |
| スピン \(S\) の x,y,z方向のスピン演算子 |
\(S_x, S_y, S_z\) |
| \(I\), \(S\) の共鳴周波数 |
\(\omega_I, \omega_S\) |
| \(I\), \(S\) のラビ周波数 |
\(\omega_{I1}, \omega_{S1}\) |
| 相互作用テンソル |
\[J = \left(\begin{array}{ccc}
J_{xx} & J_{xy} & J_{xz} \\
J_{yx} & J_{yy} & J_{yz} \\
J_{zx} & J_{zy} & J_{zz} \\
\end{array}\right)
\]
|
パルス照射下の回転座標系のハミルトニアン
\(I\) と \(S\) がそれぞれ十分に異なる共鳴周波数 \(\omega_I\) と \(\omega_S\) を持っていて、適当な相互作用をしているとき、ハミルトニアンは一般に
\[H = \omega_I I_z + \omega_S S_z + \sum_{\alpha, \beta \in \{x,y,z\}} J_{\alpha\beta}I_\alpha S_\beta\]
と書ける。
それぞれの共鳴周波数に一致する周波数のパルスを照射すると、\(e^{i(\omega_I I_z + \omega_S S_z)t}\) の回転座標系では次のハミルトニアンを得る。
\[\tilde{H} = \omega_{1I} I_x + \omega_{1S} S_x + J_{zz}I_z S_z\]
相互作用は \(I_z S_z\) だけが secular term として残ることに注意しよう。
ラビ振動の回転座標系
ここで x 方向の昇降演算子
\[I_{x\pm} = I_z \mp iI_y\]
\[\iff I_z = \frac{1}{2}(I_{x+} + I_{x-})\]
を使って \(I_zS_z\) を書き換えると、
\begin{align}
I_z S_z &= \frac{1}{4} (I_{x+} + I_{x-})(S_{x+} + S_{x-}) \\
&= \frac{1}{4} (I_{x+}S_{x-} + I_{x-}S_{x+} + I_{x+}S_{x+} + I_{x-}S_{x-}) \\
\end{align}
となって、
\[\tilde{H} = \omega_{1I} I_x + \omega_{1S} S_x + \frac{J_{zz}}{4} (I_{x+}S_{x-} + I_{x-}S_{x+} + I_{x+}S_{x+} + I_{x-}S_{x-})\]
であることがわかる。ここで、昇降演算子の性質
\[[I_{x},I_{x\pm}] = \pm I_{x\pm}\]
に注意すると、
アダマール公式から、
\[ e^{i\omega_{1I} I_{x} t}I_{x\pm}e^{-i\omega_{1I}I_{x}t} = e^{\pm i\omega_{1I}t} I_{x\pm}\]
なので、回転座標系のハミルトニアン \(\tilde{H}\) を、さらに \(e^{i(\omega_{1I}I_{x}+\omega_{1S}S_{x})t}\) で回転する座標系へ変換すると
\[\tilde{\tilde{H}} = \frac{J_{zz}}{4} (e^{i(\omega_{1I}-\omega_{1S})t}I_{x+}S_{x-} + e^{-i(\omega_{1I}-\omega_{1S})t}I_{x-}S_{x+} + e^{i(\omega_{1I}+\omega_{1S})t}I_{x+}S_{x+} + e^{-i(\omega_{1I}+\omega_{1S})t}I_{x-}S_{x-})\]
というハミルトニアンが得られる。
Cross Polarization
ラビ振動で使った回転波近似と同じ論理によって、\(\tilde{\tilde{H}}\) のうち激しく振動する項 (\(e^{-i(\omega_{1I}+\omega_{1S})t}I_{x-}S_{x-}\) と \(e^{i(\omega_{1I}+\omega_{1S})t}I_{x+}S_{x+}\)) については平均化されて消えてしまう。しかし \(e^{i(\omega_{1I} - \omega_{1S})t}\) がついている項については、
\[\omega_{1I} \approx \omega_{1S}\]
のとき、振動しなくなってその影響が残るので実効的に
\[\tilde{\tilde{H}} \approx \frac{J_{zz}}{4} (I_{x+}S_{x-} + I_{x-}S_{x+} )\]
というハミルトニアンだけが残る。その形からわかるように、これは \(x\) 方向の磁化を交換するハミルトニアンである。